you are my sunshine

60代のパート主婦、思うままに書き散らす日々

18歳の君たちへ 東北の海を 感じに行こう

 海を感じなさい。
五感を震わせて海を感じなさい。
その目で波頭を見て、その鼻で潮の匂いをかぎ、肌で東北の冷たさを感じなさい。
自然を体感しなさい。
科学の進歩の意味を、海や自然が教えてくれるだろう。

 新聞やテレビで分かった気になってはいけない。
今からでも遅くない。
震災から1年たった東北を訪ねなさい。
今は静かな海、人の絶えた街、うずたかく積もったがれき、動物の死骸。
すべてみてきなさい。

 君が大人になった時、後の世代から必ず問われるだろう。
「あのころ、どうしていたの」と。
関係なく生きていたよと、君は答えるだろうか。
2012年3月の東北の海で感じたこと、考えたことを自身の生き方に反映させなさい。
次の世代へ、次の次の世代へと語り継いでいきなさい。
これは君たちの義務なのだ。

 人に会いなさい。
会って話を聞きなさい。
いろんなひとがいろんな考えをもっていることを知りなさい。
それが社会を幸せにすることだと知りなさい。

 究極の人間らしさとは何か。
他人へのやさしさだと、私は考えている。
やさしさの語源は「痩せる」である。
他人のために自分の身を細らせるという意味を含んでいる。

 いろんな人と会い、身が細るほど相手の身になって物事を考えられる。
他人と不幸を分かち合える。
そんな人間になりなさい。
戦後はみんなが貧しかった。
今、悲劇は一部に集中している。
だから分かち合うことが必要なのだ。
弱っている人にやさしくなりなさい。
それが人と会うことの意味なのだ。

 理想を掲げなさい。
老人には描けない、何十年先の理想を掲げなさい。
理想を実現するために何をすべきか考えなさい。

 敗戦から1年後。
日本国憲法が発布された。
日本が掲げたのは、戦争放棄という新しい理想だった。
戦争から帰って来た、あるいは戦争へ行くはずだった若者たちが、その理想に夢を託した。
戦後日本の繁栄は、彼らがつくったのだ。

 震災から1年が過ぎようとしている。
今、君が夢を託せる理想はあるか。
震災後の日本をつくる理想は描けたか。
私たち老人も考えよう。
君たちも考えなさい。
自身に問いかけなさい。

 今、海を感じなさい。
人と会いなさい。
新しい理想が、理想の社会が、きっと見えるはずだ。
描けるはずだ。


- 渡辺 憲司 (立教新座中学・高校校長) -


2012年3月6日朝日新聞耕論より引用




But Beautiful ~ Bill Evans Trio ~ (今朝のたろうさんセレクト)